珍しく仕事を早く切り上げ、19時頃には帰宅してスーツに着替えていた。
今夜はこれから、懐かしの宮崎へ乗り込むからだ。
目的は、医学部5年生のときのポリクリ班（臨床実習班）で1年間一緒だった女の子Iの、明日行われる結婚式だにゃー！
だはー。
懐かしのポリクリ班は全員が招待されたので、ポリクリ班メンバーで同じ広島で働くイカワと一緒に宮崎に行くことにしていた。
だが、約束の待ち合わせ時間になっても、イカワは現れない。
研修医生活が終わり、4月からは広島市の隣の呉市というところで働いているイカワだが、急患でも入ったのだろうか…。
予定の新幹線に乗れなければ、今夜中に宮崎にたどり着けなくなってしまうが…。
遅れること20分、イカワが待ち合わせ場所にやって来た。
「遅かったな。急患でも来たん？」と聞くと、「すみません。のんびり仕事してたら、こんな時間になってしまいました（笑）」とイカワ。
って、ざっけんな！
相変わらず、マイペースな奴だな！
そんな理由なら、嘘でも「急患が来た」って言えよ！
急がないと、最終便に乗り遅れるじゃねーか！
急ぎ足で広島駅に向かいながら、普段着姿のイカワが言った。
「ところでアワヤさん、結婚式は明日なのに、なんでもうスーツ着てるんですか？」と。
えーっとね、スーツを着ずに荷物として持っていった場合、革靴なども含めると、かなり重い荷物になってしまうでしょ？
ほら、俺はこの小さなカバン一つだけど、スーツを着てないおまえは、1泊なのにバカでかいキャリーバッグでしょ？
すると、「なるほどー！ 賢いですねー！ スーツを着て行くという発想は僕には無かったです！」とイカワ。
って、ざっけんな！
この荷物量の差を見たら、普通分かるだろ！
イカワの遅刻を想定して、余裕を持った待ち合わせ時間にしていたおかげで、新幹線発車の20分前には広島駅に到着した。
しかし、新幹線＋高速バスの切符を買いに行くと、金曜の夜だからか、みどりの窓口は長蛇の列だった。
3ヶ所の窓口で長蛇の列は消化されていったが、それでもなかなか順番が回ってこず、5分、10分と時間が過ぎていった…。
そして、新幹線発車10分前にようやく俺たちの順番が来たとき、イカワが衝撃的なことを言った。
「よし、二手に分かれて切符買いましょう！ その方が早くないですか？」と。
って、ざっけんな！
絶対1ヶ所で2人分買った方が早いだろ！
第一、2ヶ所でそれぞれ買ったら、席がバラバラになっちまうじゃねーか！
イカワの意見を却下して迅速に切符を買い、新幹線の自動改札口に着くころには、発車まであと5分だった。
よし、無駄なく動けば、売店で弁当とビールを買う時間はあるな。
と思って、自動改札に切符を通し、真っ直ぐ売店へ向かったが、イカワのキャリーバッグの音がついてこない。
振り返ると、自動改札の向こう側でイカワは、財布を広げて新幹線の切符を必死に探していた。
って、ざっけんな！
買って1分後に確実に使うのに、なんでご丁寧に財布の中に切符をしまい込んでんだよ！
おまえと一緒に行動してたら、間に合うもんも間に合わなくなるし！
そんな感じで、イカワには冷や冷やさせられっぱなしだったが、何とか無事に予定していた新幹線に乗ることができた。
新幹線の中では、お互いにビールを飲みながら、血液内科医と神経内科医の道を歩みだしたそれぞれの近況を語り合った。
俺も大変だけど、おまえも大変そうだにゃー。
ま、お互い頑張ろうにゃー。
…えっ、おまえの給料、俺の1.5倍じゃねーか！
イカワのくせに、ざっけんな！
やっぱ、おまえは頑張らなくていいし！
だはー。
広島駅から新八代駅（熊本）まで九州新幹線で2時間、新八代駅から宮崎までは高速バスに2時間揺られ、日付が変わったころ、ようやく宮崎にたどり着いた。
疲れて眠かったけど、「明日は病院に行かなくていいんですよ！ こんな日が他にありますか？ 飲まなきゃもったいないですよ！」というイカワの発言に「それもそうだな。こいつ、今夜初めてまともなこと言ったにゃー。」と思って、2人でさらに飲みに出かけた。
懐かしい宮崎の街で深夜3時過ぎまで飲み、ホテルで眠った。
楽しい夜だったにゃー！
明日の結婚式も楽しみだにゃー！
だはー。
